【富士山登山の安全対策】富士山での事故を減らそう!

富士山登山の初心者向け基本情報

富士山でも毎年のように死亡事故が発生しています。富士山での事故を減らすためにもなぜ事故が起こっているのか?他の山との違いは何なのか?どういった安全対策がとれるのか?を解説していきたいと思います。

富士山登山の事故って?

富士山での事故をまとめてあるサイトが下記になります。ただしここではどういう内容なのかをうかがい知ることはできません。静岡県警察本部で提供しているデータによると具体的なその山岳事故内容を分類しています。ここでは9つの事故形態に分類しており、道迷い・転倒・発病・疲労・滑落・転落・落石・不明・その他に分類されています。富士山の山岳事故で多いのが、転倒・発病・疲労になります。

遭難・事故のリスク情報|安全・リスク情報|富士登山オフィシャルサイト
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さらに、転倒・発病に関してはもっと詳細に区分しており、転倒はつまずき・スリップ・バランス崩しの3区分しており、発病に関しは高山病・低体温症・心疾患・その他の4区分されています。富士山の山岳事故では転倒に関してはどの事由もまんべんなく見られます。発病に関しては高山病・低体温症が多いデータとなっています。静岡県側のデータのみとなりますが、傾向としては山梨県側も同じと考えて良いと思います。

警察署では山岳事故情報を冊子にまとめて発行してくれている。このような情報を元にブログの記事を書きました。

夏と冬で事故要因が異なる

さて、富士山の事故データを見る上で注意したい点は夏と冬では分けて見なければならないという点です。なぜなら、夏は登山経験のあまりない方でも登る山ですが、冬は一転、アイゼンが刺さりにくい硬い氷に覆われたとても厳しい山になり、冬山経験者でも命を落としてしまうような山になります。

富士山における適正利用推進協議会がまとめたデータになりますが、そこでは富士山の事故での死亡者数のうち74%が夏山以外、26%が富士山の夏山期間(7月上旬~9月上旬)となっています。ここでさらに追加してお伝えしたい点が、夏山期間の方が圧倒的に登山者が多いので、登山者1人当たりの死亡者数で考えれば、夏山以外の期間はとても死亡率の高い危険な山であることが分かります。その説明は別ブログでしているので参考にしてください。

では夏山は死亡事故が無いかと言えばそんなことは無く、昨年2019年にも落石によって死亡事故が発生しています。40年も前にはなりますが、1980年には落石により12人もの方が亡くなられています。自然の中に身を投じるのでどんな山でも危険は伴うのですが、冬の富士山は滑落によって死亡に至る重大事故確立が高い状況に対して、夏の富士山は前述したように転倒・発病・疲労が主な原因になっています。

http://www.fujisan-climb.jp/m3oati0000002xbk-att/2017.4_Guideline_jp.pdf

普通の山の事故とどう違う?

ではその他の山とは事故形態がどう違うのでしょうか?他の山だと富士山の様に転倒・発病・疲労が特出するような形ではなく、むしろ遭難と滑落が増えてきます。山岳事故としてカウントされるには事故者もしくは事故パーティーの人や山小屋等から救助要請がある場合が主になるので、それなりの山でのそれなりの事故もしくは遭難という形で現れます。そのため、3000m級の山でそれなりにリスクのある山での山岳事故が中心となってしまうため、滑落が増えてきます。また低い山であっても地図を持っていないで山を歩いたりして遭難という形で現れやすいです。静岡県でのデータでありますが、他の山でも同様の傾向があり、山岳事故としては遭難もしくは滑落が多くなります。

山のレーディングがされており、富士山は体力が必要だが難しい山とはなっていない。日本一の標高の富士山が登れたからと言って他の山が登れるというわけではない。

夏の富士山登山の注意ポイントは?

先ほどは富士山以外の山岳事故の原因についてみてきましたが、富士山の場合、ルートは基本的にはシンプルなルートかつ登山者も多いので迷いにくいです。(少し前までは下山ルートで山梨側の吉田ルートと静岡側の須走ルートが途中で分岐されていて、その分岐点が分かりにくかった原因があり道迷いも多かったのですが現在は解消されています。)また、夏山期間に限れば滑落の危険を感じるような場所はほぼ無いため、普通の山のリスクはあまり気にしなくて良いと言えます。むしろ最初にお伝えした、転倒・発病・疲労の3要素について注意しましょう。

原因は疲労と高山病と低体温症の3つ

疲労してくると足が上がらなくなり、ちょっとした段差でつまづくという事は経験したことがあると思います。転倒の原因の多くが疲労からくるものなので、転倒という事象にまで至って救助されたか、疲労で歩けなくなって救助されたかの違いと言ってもいいです。そのため、結局原因を分けていくと疲労と高山病と低体温症の3つになります。

富士山登山の安全対策は?

先ほど富士山登山の事故の原因は疲労・高山病・低体温症の3つだと述べました。ここではそれぞれの安全対策について考えていきたいと思います。

まず安全対策の大原則として、基本的には事前準備で決まってしまいます。私達登山ガイドをやっている者は有事の際に備えて滑落者を引き上げるロープワークを練習したりしますし、骨折の固定方法や人工呼吸の練習などもします。しかしいつも思う事は、有事が起こってしまうと私たちができることは本当に限られるということです。万が一有事が起こっても対処できる練習はしますが、有事を起こさない努力の方が圧倒的に大切だと感じます。今回も事前に取る安全対策と登山中の安全対策に分けて解説しますが、登山中に取る対策はとても限定的で難しいです。ぜひ事前の安全対策に重きを置いて考えてもらえれば幸いです。

有事の際の山岳訓練もしていますが、事故が起こってからではできる事は限られてしまう

事前に取る富士山登山での安全対策

疲労

疲労で最も効果的だと思う対策が、練習をすることです。低い山でも山を歩くと脚力がつきます。私達は山に登り慣れていますが、逆にちょっと山に登るのをさぼっていると、久しぶりに登った時の疲労感がすごくなります。それだけ山を歩くという事前練習は効果絶大だと感じます。

その他にできる疲労対策はトレッキングポールを持つことです。手も使って登ることができるため、足だけの時よりもだいぶ疲労が軽減されます。最近の登山ではどの山でもトレッキングポールを積極的に使うことが多いので、富士山でも使っていきましょう。

高山病

高山病対策は高所に慣れる事だ!と思いがちですが、日本にはなかなかそのような場所がありません。現実的で高山病で最も効果がある対策は余裕のあるプランニングをすることです。急いで登らないといけないようなプランでは高山病を発生させやすくさせます。じつは高山病だけは登山中でも対策が可能なので後述の登山中の安全対策に詳しく説明します。

高山病対策のブログに詳しく説明していますが、寝不足が高山病を加速させますので、事前にしっかりと睡眠をとって体調を整える事は大切です。あとは準備を万端にするには水分補給を理想的に行うためにハイドレーションという道具を使うことも有効です。こちらもブログで解説していますので気になる方はチェックしてください。

低体温症

低体温症で多いのが準備不足です。「富士山がこれほど寒かったとは予想外でした」という感想をよく頂きます。下記のブログでは富士山の気温を東京の気温と比較しています。東京の真冬の気温と変わらないのですから、簡単に言えば真冬の服装の準備をしていけばいいのです(但し山の気温の特性があるので最後までブログを読んで下さいね)。富士山登山でとても真冬の東京で外出する服装とは思えない準備をしてくる方がいます。それもそのはず、東京では30℃を超える真夏で、つい何時間か前はそんな蒸し暑い東京を出発してきたわけですから登山に慣れていない方には想像もできない世界なのです。

登山中の安全対策

登山中にできる安全対策はとても限られてしまいます。先に記載したように安全対策は準備段階が最も重要なので繰り返し伝えさせていただきます。それを前提として、登山中にできる安全対策は、高山病のみだと考えています。

登る(歩く)ペースに気を付けよう

高山病は酸素不足からくるものです。高山病になる一番の理由はオーバーペースです。なぜオーバーペースになるかと言うと、普通に歩くペースだとオーバーペースになってしまうためです。斜度があり、かつ空気が薄い環境下では運動量を極端に抑えないとオーバーペースになります。普通に歩いているつもりでも、100mを全力疾走しているような環境のため息切れ必死ですね。富士山登山での理想のペースは会話ができるペースが重要です。初心者にとってはめちゃくちゃ歩くのを遅くするイメージです。しかも山頂に近づくほどより一層斜度がきつくなり、空気が薄くなるので遅いペースにすることが重要です。歩くペースは登山中でもコントロール可能なので気を付けましょう。

水をこまめに飲みましょう

高山病の予防で登山中にもできるもう一つの大きなポイントは水分補給です。高山病の原因の所で詳しくは解説していますが、水分補給をしっかりとすることで血液の流れを良くして全身への酸素の運搬を助けてくれます。水分補給は休憩時間にしっかり取るだけでは不足していて、理想的には歩きながら5~10分に僅かずつ補給するのが望ましいです。なかなか難しいかもしれませんが、それくらいこまめに取る方が良いという意識を持ちましょう。

最終手段!登山プランの変更

これまで説明してきた登るペースに気を付け、水分補給をこまめにしっかりと取ってきたのにそれでも高山病になってしまったら、最終手段としてプランの変更です。富士山山頂でご来光を見ようと思うとどうしてもペースも上げないといけなかったり、宿泊する山小屋を深夜に出発しなければならなくて充分休息時間が取れないという状況になります。吉田ルートであればどの山小屋からでもご来光を見れますので、いっそのこと山頂でのご来光をあきらめて、十分に山小屋で休息を取るプランに変更しましょう。ただし、朝になっても体調がすぐれない場合は下山をした方が良いです。登山当日での思い切ったプランの変更ができるように事前準備の時に余裕を持った登山日程にしておくことが必要です。

富士山登山中の安全対策番外編(救護所、雷)

結構危険!登山での雷対策

番外編としてもし天候が荒れた場合、雨や風に関しては歩けるほどの状況かどうかを判断することができると思いますが、雷に関してはあまり遭遇する経験がないのでどうしたら良いのか分からないと思います。山の雷はとても怖いもので、雲の中に入ってしまうためどこから雷がきてもおかしくない状況になります。雷が近づいたらやれることは無いので、山小屋に避難してください。富士山の登りの場合、比較的山小屋が豊富にあるので、それほど心配はいりませんが、吉田ルートの下山は8合目より下がしばらく山小屋が無い状態が続きます。下山のペースによりますが遅い人だと2~3時間避難できる場所がない状態になりますので、現在の天候・雷状況を小屋等で確認し、次の小屋や避難所が見える程度にあるのか、しばらく時間が掛かりそうなのかで小屋に留まるかどうか判断しましょう。

富士山にも救護所がある

吉田ルートの救護所
富士山五合目総合管理センター

五合目ロータリーそば。登山期間中は24時間開設。富士山の観光情報や登山案内。救護施設・看護師の配置がある。

富士山安全指導センター(六合目)※医師不在

六合目に設置。天候など富士山の情報を得られる。またヘルメットの貸出しもあり。登山シーズンは24時間開設。

富士山七合目救護所

富士山吉田ルート7合目の標高2790メートル、山小屋「鎌岩館」下。登山シーズン全てで開設しているわけではないため事前に開いている期間を確認必要です。

富士山八合目富士吉田市救護所

標高3100メートル富士山吉田ルート沿いの山小屋「太子館」の併設スペース。こちらも登山シーズン全てで開設しているわけではないため事前に確認が必要です。

富士宮ルートの救護所
富士山総合指導センター(五合目)※医師不在

出発地点である五合目にて富士山ナビゲーター・警察官常駐。

富士山衛生センター(八合目の池田館横)

八合目池田館併設衛生センター(救護所)(登山シーズン中の一定期間開設。医師が24時間常駐)

富士山総合指導センター付近(五合目)

富士山の過去の事故

昭和55年 吉田大沢崩れ

昭和55年8月14日に富士山の吉田大沢山頂付近で大規模な落石が発生し、何十個もの落石が起こった結果、死者12名負傷者31名の被害が生じました。だいぶ昔の話ですが、富士山の登山シーズンでもあり、かつ山頂の落石が大規模に広がり、かなり下(五合目付近)の登山道まで及んだようで大規模な被害となりました。ここまで大規模な事故となると40年前となり、だいぶ昔の話でいまとは関係ないと思ってしまうかもしれませんが、富士山に限った話ではないですが、未来に渡って今の形をずっと保持している訳ではありません。落石など人的被害のないレベルの小規模な形状の崩れはよく起こっており、まれに大規模な沢崩れのようなものが起こっています。吉田大沢のようながけ崩れがまたいつ起こってもおかしくありません。ただし現在では、登山道に及ぶ場所においては落石防止の工事が行われているため、登山道付近で大規模な落石が起こり、大規模な人的被害を出す可能性は軽減されていると言えます。

昭和55年8月富士山落石写真

令和元年吉田ルート山頂付近

小さな落石、がけ崩れはよく発生しており、令和元年に死亡事故も発生しています。吉田ルート山頂付近で落石が発生し、胸に当たった落石が致命傷となり、外傷性心肺損傷により29歳のロシア人女性の方が亡くなられています。前年度の台風ですでに山頂付近の石垣が崩れていて仮復旧を行ったものの完全に修復をされているわけではなかったと思われますし、そこに加え、山頂付近の大渋滞で崩れやすくなっていた部分が崩落した可能性もあります。近年でも小規模な落石は発生しています。

富士山登山のまとめ記事は下記になりますので参照ください。

【富士山登山初心者必見】富士山登山に役立つ情報すべて載せてます!
・富士登山の最適な時期がわかる ・富士登山のルートが分かる ・各ルートのアクセスが分かる ・富士登山の一日のスケジュール感が分かる ・高山病についての理解と対策が分かる ・富士登山の持ち物・服装が分かる ・事前の準備・練習方法が...
そらのした富士登山

富士登山用品のレンタル事業を展開して10年超のそらのしたスタッフ。スタッフ内には静岡山岳ガイド協会に所属している者やアウトドア全般に精通したスタッフも在籍。富士山の富士吉田ルートが近い山梨県富士吉田市に拠点を置き、富士山には何度も登った経験を有し、夏だけでなく冬季の富士山に登った経験もある。「遊び心あふれる仲間づくり」をミッションに活動する。

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