目次
~遭難事故原因のトップ2を克服しよう!~
山での遭難事故の原因なんですが、なんと80%が「迷子」と「転倒」なんです。
つまり、「迷子にならずに転ばない」でいられれば、遭難事故の80%が回避できるということなんですね。
「えっ、富士山で遭難事故なんてあるの?」
登りも下りもほぼ1本道で、初心者でも5合目から気軽に登っているのが富士山です。
山小屋へ向かうバスツアーなら、1台分のお客様をガイドと添乗員の二人でさっさと案内していきます。
確かに、遭難事故とは無縁そうですよね。
ところが、迷子も転倒も毎年減るということがないんです。
その大きな原因の一つが、登山される方のほとんどが初心者、初級者だということです。
初心者、初級者の味方である私としては、これは放っておけません。
「迷子になんかしませんよ! 転倒なんかさせませんよ!」
富士山は救護所や山小屋、管理センターなどが他の山に比べて数多く有り、いざという時は頼りになります。
でもまず、「いざという時をつくらない」のが登山の鉄則です。
さあ、一緒に富士山登山での迷子と転倒を克服しましょう。遭難事故の80%を回避してしまいましょう。
心理面から見る遭難事故原因
ところで皆さんは、『正常性バイアス』という働きをご存知でしょうか?
人の心の中には、危険をあえて認識しようとしない、という不思議な働きがあります。
それが正常性バイアスです。
つまり皆さんの心って、デリケートでありながら実は意外と鈍感にできている(失礼!)ということなんです。危険に直面しているのに、それを避けようとすることも、しまったと思って後戻りすることも、なんか面倒になってやらないんですね。津波などの災害時にも、これがネックになって大きな被害が出てしまうんだそうです。
そうです!富士山登山での「迷子」にも「転倒」にも、こいつが大きく絡んでくるのです。
『 迷子になりますか? 転倒しますか? パート② 』では、この正常性バイアスを逆利用して、まず「迷子」をやっつけます。ご期待下さい。
P.S. 私はこの正常性バイアスってやつがどこか憎めないんです。「緊張するなよ、気楽に行こうぜ」っていう、心からのメッセージだと思うんですが……
富士登山の遭難【迷子のエピソード】
~まず、迷子をやっつけよう~
2013年の8月。
登山シーズン真っ盛りの富士山でこんな迷子がありました。
イギリスから日本を訪れ、観光の途中で富士山登山にチャレンジした3人。年齢はご両親が50代で、娘さんが20代でした。
下山途中の七合目あたりで娘さんが行方不明になりました。疲れきったご両親が五合目の管理センターに助けを求めたのが2時過ぎ。お父さんは途中まで下山道を戻り、お母さんは五合目の広場で1時間も娘さんを待ち続けた後のことでした。
事故の報告はありませんでしたが、ただの迷子ではないかもしれない。そんな不安な空気が流れました。
結果からお話します。
娘さんはご両親より一足先に下山し、五合目の広場で待っていたのです。それもお母さんが待ち続けていたすぐ近くで。
管理センターで休息をとったお母さんが、再度広場に行って、無事娘さんを見つけました。
この迷子事件には少なくても3つの「正常性バイアス」が働いています。
※前回ご紹介しましたが、「正常性バイアス」とは「人の心の中にある、あえて危険を認
識しようとしない心理」のことです。
1、七合目で少し気分の悪くなった娘さんは、ご両親が疲れて注意力が散漫になっている
危険を認知しながら、ご両親がすぐに後から来るだろうと、1人で先を急ぎました。
2、急に娘さんの姿を見失う危険に陥ったご両親。まず、先に行ったけれどすぐ下で待っ
ているだろうと娘さんを探しませんでした。次に、娘さんが遅れているのだろうと思
い直してその場で待ちました。
3、五合目の広場で母と娘は、ここで会えなければ登山道を離れた広大な範囲を探さなけ
ればならない危険を認知しながら、実はお互いに相手が探してくれるだろうと、
自分が探すことなく、ただ待っていました。
いずれも不注意と言ってしまえばそれまでですが、それ以前に、人の心には「正常性バイアス」という働きがあり、危険を認識したがらないのです。もし3人がそれぞれの立場で、あと少し危険を認識していたら、この事件も起きなかった可能性が高いでしょう。結末としては幸運な迷子でしたが、学ぶことが沢山ありました。
同じ年、吉田口登山道から登って、誤って須走口に降りてしまい、途方にくれて係員に相談した人の数は1070人。四人組の一人だけが須走口に迷い込んでしまい、その人が車のキーを持っていた、そんな悲喜劇もありました。
富士登山の事故【トレッキングポールでの転倒防止】
~次に、転倒もやっつけてしまおう!~
人は疲れていると不注意になる。
いえ、
実は疲れていなくても不注意にはなるんです。
その大きな原因となるのが、2回に渡ってご紹介してきた『正常性バイアス』という働き。人の心の中には、危険をあえて認識しようとしない、という不思議な働きがあります。
人は疲れていなくても不注意になり、その積み重ねが事故へと結びつきます。そしてその影に正常性バイアスありなのです。
さて、遭難に結びつく山岳事故。その原因のトップは前回ご紹介した「迷子」です。
その迷子と並ぶのが今回ご紹介する「転倒」です。
これはかなり厄介で、滑落や転落という大事故につながります。
そこまで行かなくても、ただの転倒自体にも大きな問題、というより危機が潜んでいます。
「転倒による三大骨折」
1、コーレ骨折 転倒した時に片手で支えようとして、手首を骨折する。
※その場で上腕からこぶしまでを固定する必要あり。
2、大腿骨頚部骨折 転倒した時に股の付け根を骨折する。
※その場で体幹からの固定が必要で、手術も必要。
3、脊椎圧迫骨折 尻餅をついた時に脊椎が圧迫されて潰れてしまう。これ、頭のて
っぺんまで痛いです。
※神経損傷を伴うことがあり、スノーボードなどで搬送必要。
もしあなたが運悪く、というより不注意で転倒して、骨折したとします。
あなたは、こんな「後悔」をします。
☆足元に注意すべき場所だったのに。
☆話(景色に)に夢中になって注意を忘れてしまったから。
☆トレッキングポールを持っていたのに使わなかったから。
☆多分大丈夫だと甘く見てしまったから。
☆暗くなったけれど、まだライトを使わなくても大丈夫と思ったから。
危険に直面しているのに、それを避けようとすることも、しまったと思って後戻りすることも、なんか面倒になってやらなかった。人の心の中には、危険をあえて認識しようとしない、という不思議な働きがあります。それが『正常性バイアス』です。
さあ、「後悔」しないためには、もう何を意識すればよいかお分かりです
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