Ⅳ 魅せられた人々の巻 ①

木村東吉さんの「富士山と五湖の自然と暮らしに魅せられて」

ヒロミさん、富士北麓にはまる

ところが、いまから5年ほど前。2011年の夏頃、ある友人を介してヒロミさんから連絡があった。

「山に登りたいから案内してほしい」、と。

山には毎日のように登っている。とくに我が家の裏山である足和田山には、週に何回も登っている。我が家のすぐ脇から足和田山へと続くトレイルがつながっており、急げば50分くらいでその頂上に立てる。そんな身近な山ではあるが、そこは「東海自然歩道」の一部にもなっている。

「東海自然歩道」とは、東京都八王子市にある「明治の森高尾国定公園」から大阪府箕面市にある「明治の森箕面(みのお)国定公園」まで、総距離1697㎞にもおよぶロングトレイルである。

「足和田山でよければ、いつでも案内するよ!」。そうヒロミさんに告げると、さっそく翌日の早朝からいっしょに登った。

いつもなら自宅から足和田山の頂上である「五湖台」まで行って引き返してくるが(「五湖台」といっても、頂上から湖は3つしか見えない)、そのときはせっかくなので足を伸ばして「三湖台」まで行った(こちらも、「三湖台」といっても湖はふたつしか見えない)。

そして、三湖台の頂上ではお湯を沸かしてインスタント・ラーメンをふるまった。

このインスタント・ラーメンがヒロミさんのココロを強くとらえたらしく、彼はたちまちこの足和田山ハイクの虜(とりこ)となった。

その理由はふたつある。

さきほど、この足和田山への道は「東海自然歩道」の一部であると述べたが、総距離1697㎞の自然歩道のなかでも、ここは美しいモデルコースとして指定されているのだ。そりゃそうだ。歩いている間、ずっと手が届きそうな近さで富士山が見えるし、その数に「偽り」があるにせよ、富士五湖を随所で見下ろすことができるのだ。まったく有名な山ではないが、山の魅力がいっぱい詰まったトレイルである。ヒロミさんが虜になるのもうなずける。

もうひとつの理由は、これはのちにわかったことだが、ヒロミさんは「道具好き」である。これは、男なら誰しもが理解できるだろう。自分の好きなバーナーやコッフェルなどを、これまた自分のお気に入りのバックパックに詰めて山に登り、休憩時にそれらを駆使して簡単なクッキングをする……。こういう行為にとらわれてしまったのだ。

ボクがヒロミさんを足和田山に連れていったのはただ1回だけだが、その後、週に少なくとも2回、多いときは4回ほど、足和田山でヒロミさんに会った。彼は東京都内でジムを経営しており、そのインストラクターや顧客を連れてくることが多かった。

あとで聞くと、やはり頂上で彼らにラーメンをふるまっているらしい。しかも、そのラーメンは、ボクが作るより豪華で、茹で卵が入っているらしい。さらに、その茹で卵は、奥様であるタレントの松本伊代さんが作っているという。いやはや、なんとも豪華なインスタント・ラーメンではないか!

冗談はさておき、彼のアウトドア熱はおさまることを知らなかった。次々と山の道具をそろえ、小型テントなどもそろえる。いつのまにか、ボクもがうらやむような最新のバーナーも所有している。

我々は足和田山だけではなく、いっしょに十二ヶ岳にフリークライミングをしにいったり、冬になると三つ峠の凍った滝にも、アイスクライミングに行った。

とくに「道具好き」のヒロミさんはアイスクライミングに夢中になり、その腰にはシュリンゲやカラビナがジャラジャラとぶら下がり、その両手にはアイスアックスが握られていた。そして、そんな厳寒のなかでも、バーナーでお湯を沸かしてラーメンをすすった。

ヒロミさんを夢中にしたのは山だけではなかった。早朝の靄(もや)のなかを漕ぎ出すカヤックにも夢中になり、何度もいっしょにパドリングを楽しんだ。

ボクがこの場でわざわざ言う必要もないが、芸能界でも屈指の「趣味人」として知られ、これまでにもウエイクボードやジェットスキー、それにスノーボードやフィッシングなど、枚挙にいとまがないほど「遊び」を知りつくした男が、富士五湖の自然に魅せられ、通いつめたのである。

凍てつく三つ峠にて。

凍てつく三つ峠にて。

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